はじめに

2020年の新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、リモートワークの導入やペーパーレス化が急速に進みました。さらには電子帳簿等保存制度やインボイス制度など、ペーパーレス化を後押しする流れは年々増しています。

そこで本記事では、ペーパーレスを進めるための重要なポイントをご紹介します。

ペーパーレス化、なぜ進まない?

漠然とペーパーレスを進めるべき、進めた方が何かと便利だということはわかっているものの、なかなか進まない、定着しないという企業は多く存在します。

なぜ進まないのでしょうか。理由は企業によって異なりますが代表的なものだと

  • メリットが理解できていない
  • 紙文化が定着している

といった理由が例としてあげられます。

メリットが理解できていない

「ペーパーレス化した方がいい」ということは漠然とわかっていても、具体的なメリットが理解できていないと、上層部や従業員にペーパーレス化導入・推進の重要性が伝わりません。

紙文化が定着している

紙がある前提の業務ルールやフロー、ハンコ文化が根強い…
これらは日本企業全体の傾向と言っても過言ではありません。
紙ありきの業務フローや業務ルールを見直すにはとても労力がかかります。

「ペーパーレスを進めるべき」と漠然と理解しているだけでは、コストや労力と天秤にかけられたとき、優先度は低く設定されてしまうことが多いです。

ペーパーレス化が進まないとどうなる?

では、ペーパーレス化が進まないといったいどうなるのでしょうか。

社会全体の流れに取り残される

「社会全体」と聞くと少しおおげさに感じてしまうかもしれません。
そこで「社会全体の流れ」の一例として「電子帳簿保存法」に焦点を当ててみます。
電子帳簿等保存制度は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの制度からなりたっています。

電子帳簿等保存法

参考:「令和3年度税制改正による電子帳簿など保存制度の見直しについて」(国税庁)

この3つの制度は、「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」が利用を希望する場合であるのに対し、「電子取引データ保存」は紙で帳簿管理をしていたとしても対応が必須という特徴があります。

2022年の改正では「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」の条件が大幅に緩和されました。「電子帳簿等保存」では現在市場に流通している一般的な会計ソフトでも制度対応ソフトとして認められるものが増え、「スキャナ保存」では実務上の手続きが格段に簡素化されています。

一方で電子取引データ保存では、電子取引における領収書等(ネット通販での領収書などを含む)は電子帳簿の利用有無に問わず、今までは容認されていた紙ベースでの保存が有効な領収書等として扱われなくなり、電子的な方法で保存をしないと有効な領収書等として認められなくなりました。一応、救済措置として猶予期間が設けられているものの、電子保存の義務化は避けて通れません。

テレワーク・リモートワークの浸透に伴い、企業の業務でもペーパーレス化が徐々に進んだことで電子帳簿保存法やインボイス制度など、社会全体としてペーパーレス化を後押しする大きな流れができているというわけです。そうなると「社会全体の流れに取り残される」というのも、あながちおおげさな話ではないですよね。

ペーパーレス化を進める4つのポイント

「社会全体としてペーパーレス化を後押しする流れができている」ということは「ペーパーレス化を進める絶好のタイミング」と言えます。
紙文化が根強い企業でのペーパーレス化は実質企業革命のようなもの、その為ツールなどをただ導入するだけでは紙の業務は減らず、コストがかかっただけという悲惨な結果を迎えてしまう可能性があります。
闇雲に進めるのではなく、重要なポイントをおさえた上で計画的に導入を進めましょう。

  1. ペーパーレス化のメリットを整理する
    根強い紙文化の企業で「ペーパーレス化すべき」と漠然としたイメージだけでは、上層部や従業員にペーパーレス化導入・推進の重要性を訴える際、説得力にかけてしまいます。まずペーパーレス化のメリットを整理してみましょう。
    • コスト削減
      用紙代、印刷代、廃棄代が削減できるのはもちろん、書類の保管場所にかかる賃料や保管に必要なキャビネットやバインダーなども削減できます。
    • 生産性の向上
      書類整理や探す手間や時間が解消されるだけではなく、電子化することで複数人同時アクセスも可能です。「いつでも」「どこでも」確認できるようにすることでテレワークや営業先からでもリアルタイムに情報共有することができます。
    • 情報セキュリティの向上
      持ち運びが容易な紙だと、どうしても監視カメラや金庫のような物理的対策を施す必要があります。何より紙媒体だと持ち出されてしまったら最後、暗号書面でもない限り情報漏洩は避けられません。その点、電子管理であればファイルの閲覧制限や誰がいつファイルを閲覧したのかも履歴が残ります。
  2. ペーパーレス化自体を目的にしない
    紙をなくすことは手段であり、目的ではありません。「紙はなくなったが業務の手間が増えた」「社長/役員/上長には紙で提出しないといけない」せっかくペーパーレス化しても、このような状況では本末転倒です。
    「なぜ」ペーパーレス化をするのか、「どのような」課題を解決するものなのかを明確にしておきましょう。
    • 紙の資料の時系列を3フェーズに分けて考える
      現行の業務フローにおいて、紙の資料の過去、現在、未来の3つのフェーズに分けて考えるとペーパーレス化の目的やメリットを明確にしやすくなります。

      紙の資料は…
      どこからやってきて(過去)
      どのように利用して(現在)
      どのように保管するのか(未来)

      例えば、PCで作成した資料を印刷して会議で利用し、元データをそのまま保存する場合
      電子(過去)→紙(現在)→電子(未来)
      と考えることができます。

      取引先から受け取った紙の資料で打合せして、後にスキャンして自社で保管する場合は
      紙(過去)→紙(現在)→電子(未来)
      となります。

      保管場所の省スペース化や検索性向上、書類管理の手間削減を目的とするのであれば、未来のフェーズは「電子」である必要があります。

      また、テレワーク推進やWEB会議の推進などが目的であれば現在のフェーズが「電子」である必要があり、極端な話、過去と未来のフェーズは「紙」でも問題ないのです。
                 参考:ペーパーレス化の方法は?具体策やおすすめツール、実現の手順を紹介
  3. すべての紙をなくそうと思わない
    「すべての紙をなくす」ことに固執しないようにしましょう。「すべての紙をなくす」ことより「紙がなくても業務が可能な状態にする」ことの方が重要です。

    また実際導入してみないと見えてこない課題や問題も存在するので、まずは業務範囲を狭めてミニマムスタートするのもおすすめです。

    手っ取り早く全業務に導入したくなる気持ちも理解できますが、全業務に導入して業務が回らない・ストップしてしまうような問題が発覚する可能性も否定できません。一部の業務ならまだしも、全業務では影響範囲を考えるとかなりリスキーです。 トライ&エラーを繰り返しながら、着実に導入範囲を広げていきましょう。

終わりに

今回ペーパーレス導入時の4つのポイントをご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
電子帳簿保存法やインボイス制度などを皮切りに、ペーパーレス化を後押しする流れは今後ますます増していくと予測できます。

「導入したら終わり」ではなく、導入後の定着化が重要なペーパーレス化は早めに着手するにこしたことはありません。
この機会を逃さず、ぜひペーパーレス化に取り組まれることをおすすめします。
慣れ親しんだ紙ありきの業務フローを変えることは、一朝一夕で実現できるものではありません。
重要なポイントをおさえて着実に進めることがペーパーレス化成功への近道です。
そして「紙を使わない」ことが常に最適解というわけでもありません。場合によっては電子より紙の方が向いていることもありますよね。

「紙がなくても業務が可能な状態」を用意した上で、状況に応じて「紙」と「電子」を使い分けできる環境がペーパーレス化の理想と言えるのではないでしょうか。

ぜひ本記事を参考に「紙をなくす」ことを目指すのではなく、「紙がなくても業務が可能な状態」を目指してペーパーレス化に取り組んでみてください。