デジタル化で労働時間が増えて本末転倒…そんなことになっていませんか?

「DX」がもてはやされるずっと前から、会社のなかのあらゆる業務でデジタル化はすでに進んでいます。代表的なのがエクセルやアクセスでの顧客管理。これはれっきとしたデータのデジタル化です。

我が社は社内のデータはエクセル管理で十分だ—–。そう言い切る会社も少なくないでしょう。また、多くの中小企業の社長さんが、「そもそも、営業管理にかかるツールを使うなんて、SFAやCRMのツール提供会社のPR戦略に乗っかっているだけだ。」少なくとも少し前までは、口を揃えてこのように言っていました。

しかし、コロナ禍に突入して数年が経過し、現場の声に耳を傾ける社長さんの中には、「改めて自社を見渡すとよけいな作業が増えて社員が疲弊しているような気もする。」――というような感想とも問題とも言える掴みにくい課題を抱えている方もいます。

そこでこの記事は、エクセル管理企業が陥った混乱の様子をお伝えし、それを踏まえた上で生じる混乱の原因を探ります。以下のストーリーを元に、問題を課題化するために一つづつ紐解いていきましょう。

食品製造・卸業会社社長の場合

食品製造並びに卸業の会社を経営する社長のAさんは、ここ最近の新規商談の成約率の低迷に頭を抱えていた。

当社はもともと「商談管理は日報とエクセルで十分」などとして、SFAなどの導入に対して積極的ではなかった。それには十分な理由がある。自社の営業の内容にどう照らし合わせても、営業部員一人当たりの担当取引先数が少なく、SFAなどの導入でさほど効果は上がるとは思えなかったからだ。しかしそんなある日、営業部長より届いたメッセージに、Aさんは少なからずの動揺と胸騒ぎを覚えた。

営業部長A氏からのメッセージ:「大型商談Zの件ですが、昨夜以下のようなクレームがあり…、商談消失となってしまいました。社長が期待をかけておられた商談Zを成約できませんで、大変申し訳ございません。」

これに困惑したA氏、これ以上営業成績が低迷したままではいよいよまずいと思い、営業部長のB氏を呼び出し、全体の営業成績低迷について事情と対策を聞くことにした。営業部長の言い分は以下のとおりだった。

営業部長B氏:この度は大変申し訳ございません。商談消失の原因なのですが、実は正直なところ、私もよくわからず。というのもあまり大きなミスがあるわけではないのです。

A氏は、「確かに精神的なものが原因となることはある。しかし大きなミスがないと言われても、理解に苦しむ。もう少し論理的な分析はできないのか。」

「はい。ただ、‥。」と申し訳なさそうにB氏は話し始めた。
ここからは、本当に細かな言い訳になるかもしれませんが、申し上げます。コロナ禍となって、コミュニケーションの手段がメールやチャットやリモート会議に分散したりしました。本商談は大型商談として担当者も複数名いる中で進行しました。このような状況の中、先方企業から頼まれた調査資料作成を、他に複数の商談を掛け持ちしている担当のD氏が完全に失念した、と言う事件がありました。このことが、商談にミソがついた最初のきっかけのように考えています。これは、D氏がリモートに全振りし、メインのコミュニケーション手段としてメールではなくチャットを活用していたことが原因のようです。

A氏「なんかごちゃごちゃ細かい言い訳を言っているようにしか聞こえないなあ。」「もっとハッキリした原因は探せていないのか?」

B氏は苦笑しながら「これがついた一番大きなミスで、あとは小さなミスが多数、といったところです。別の資料送付の際に、営業アシスタントのEさんがメールで送付するとき、先方企業名を間違えたことがありました。マスターレコードのエクセルの行のコピペを間違えたようです。原因は社内で確認の体制がなっておらず、アシスタント任せになっていたこと。いま早急に体制の見直しをしております。この他、資料送付が遅くなったり、先方から催促されて初めて資料を送ったりなど、現場でレスポンスの遅延が何度も発生しているのを見かけました。これら五月雨的に起きた小さな不手際の積み重ねで、当社が信用を徐々に落としたものだと考えています。

B氏は再び重ねるようにして、「それもまた、我々営業部門がたるんでいるのが原因です。申し訳ございません。」と答えた。

しかしA氏は釈然とせず「うーむ。まだよくわからないぞ。」と答えた。

沈黙が続く社長室‥‥‥。

十分ほどの沈黙ののち、B氏がポツリポツリと言い始めた。「それでは申し上げたいのですが‥。営業活動とは関係はなさそうですが、より早い成果を出すために改善すべきポイントがあると私は日頃から感じていました。」

「それはなんだね?」社長のA氏の問いに対して、B氏は続けた。
「それは顧客管理マスタです。」「当社、マスタデータがぐちゃぐちゃなんです。」

B氏のあまりにも意外な答えに再度聞き返す社長のA氏。B氏は続けた。

「社長がおっしゃる通りこれらごちゃごちゃとした、いわば事細かな不手際の大部分は、 いくつかの情報一元化によってすべてよくなる、またはなくなるのではないかと考えているのです。」

「実際、大型商談Zにおいても、顧客管理リストに基づき営業をしようとしても情報が混在している、若しくは最新の商談情報にたどり着けない、と言うことが何度もありました。また直近でどんな会話をしているのか、先方は何を欲しているのかわからないし、さらに複数のコミュニケーション・ツールでのやりとりが混在していて、いま組織としてやるべきことを整理できにくいのです。つまり、より具体的にto doの粒度で情報を共有しようにも、基軸となる仕組みがないのです。」

「そもそも全情報に紐づいて1つしか存在しないはずの「顧客マスタデータ」が、エクセルが入力自由なために、同じ顧客名で4つも5つも候補が出てくる。現場にとって非常のやりにくい状態になってしまっています。」

ここで営業部長B氏を遮って、社長のA氏は言う。「確かに他の社員からもエクセルでまとめられた顧客管理リストが利用しにくい。という声は聞いてはいたが。なるほど、その理由がなんとなくわかってきたぞ。」

「そうです。例えば急なリクエストがあっても必要な情報にすぐにリーチできない事。そんなことが頻発しています。このままでは、先方の情報を「目隠しで」探り当てながら、営業活動を行わなければなりません。営業活動を行う営業部員が使いにくい顧客マスタの改善が必要なのではないでしょうか?」

 A氏は今度は管理部長C氏を呼び出し、営業部長B氏からの申し出について説明した。

管理部長C氏
「はい、営業部の言い分はわかりました。検索しにくい、アクセスはできても欲しい情報にリーチしにくいと言うことですね。しかし顧客リストは現在、日報を元に構築していますため、見込み顧客名(リード)などが重複していたとしても、こちらで重複かどうかについて判断できません。しかも、リードから取引先責任者へのフラグ変更をしていたり、しなかったり。これらを入力したのはそもそも営業部の各メンバーなのですよ。」

「管理部にとって、顧客マスタのデータ・クレンジングは非常に難しく更新に必要以上の時間がかかってしまいます。」「なので、月に一回以上はデータクレンジングはやらないことに決めたところでした。」

「そもそも全てが営業部発の情報ですので、営業部のメンバー同士で話し合えばいいんじゃないでしょうか。治しても直しても、次々と同じようにデータが重複しており、わたしは修正入力したりする意味をあまり感じませんが。」

Aさんは両者の言い分どちらにも共感しつつ、善後策を考え始めた。

いかがでしょうか。あなたの会社でも、多かれ少なかれこれと似たトラブルが起こっている可能性はないでしょうか。
「メールとチャットがあってややこしい。」「やりとりをツールに入れたままなので、人と人がひざをつきあわせて話さないと伝わらない。」「え、そんな話がそっちで進んでるの?」などなど。

問題には原因があります。それを整理すると課題になります。この会社の管理部長のように、混乱する状況の一面だけを捉えることだけで「デジタル化は弊害だ」と捉えるべきではありません。

ではどう解決すべきなのでしょうか。解決すべき課題はシンプルに「情報の一元化」のようです。しかしどの情報をどう一元化するのでしょう?そこで、さらに詳しく分解して考えることにしましょう。一元化の課題の、解決の方向性について考察すると、以下のように細かく分解できそうです。

  1. 顧客名、属性情報など基軸となる「半固定的データ」で複数個の重複入力をさせない
  2. 見込み客との直近のコミュニケーション状況や検討段階が最優先で把握できるようにする
  3. 見込み顧客とのキャッチボールの「玉」がどちらにあるのかわかるようにする(こちらに宿題が存在しているのか、それとも向こうの返事待ちなのか、どちらなのかわからない状態を回避する)

以上のような方向性が、一般的には解決へと向かう道筋とされています。

確かにエクセルなど表計算ソフトは表示に・計算に・と万能でしかも誰にもなじみがあるアプリケーションであり、業務のさまざまな面で活躍できます。データ管理するのに便利なツールですが、顧客情報などについては、入力の自由度が高いエクセルはむしろ弊害が見られたりします。

データの真の「一元化」を果たすために、顧客情報をエクセルなどで管理する場合は、どのように運用するのか明確に意識して間違いのないように実践しなければなりません。

もし、このあたりに不手際が起こりにくいようにしたい、と言う場合は、「デザインされた顧客関係管理システム(CRM)」を導入することが近道だったりします。「デジタル化」の第一歩としてCRMやSFAを検討してみてもいいかもしれません。

今回のケースでの問題点を、よりシステム的な言葉で表現すると、こうなります。それは、ディメンションデータ(顧客名など普遍的な情報)とファクト(営業成約率など、日によって変化する詳細な情報)データです。本来、ディメンジョンデータは入力が一箇所から、しかも固定的に入力される存在でなくてはなりません。これをエクセルデータ上で自由に入力できると、保守性が一気に低下するものです。

営業部員は、ディメンションにあたる顧客名や担当者名を、「営業日報」の入力フィールドで毎回入力が可能な状態になっていたことがわかりました。結果、「株式会社◯◯◯」だったり「(株)◯◯◯」などと入力方法が違ったりする結果になりました。営業部員にとっては、「なんで毎回、同じことを入力しなければならないのだろう?」という存在になっていたかもしれません。皮肉なことに、これが管理部門の新たな仕事(データクレンジングの対象)を生んでいました。

 改めてここまでの議論を整理してみましょう。まず、多くの経営者にとって「労働効率を向上するためには、業務のデジタル化が欠かせない」ということには異論がないと思います。しかし「データ入力のデジタル化は進んではいるが、それによって業務に時間がかかってしまっている。作業時間が増え煩雑になるのはどうしてだろう?」という疑念をもつ経営者の方への答えの一つは、「情報の一元管理」だということがわかってきました。

解決のためのヒント

 情報の一元管理を促すひとつの方法に、顧客関係管理ツール(CRM)を全社的に導入するというものがあります。先程の例でいえば、営業部も管理部も、このツールを使ってディメンションを固定的に、ファクトのデータを自由に入力することで、必要なときに必要な顧客情報を、見やすい形で確認し、またアウトプットするなどして商談に役立てることができます。このツールの導入によって、「デジタル化を進めた結果、業務にさらに時間がかかる」という本末転倒な事態を避けることができるはずです。

生産性向上に向けて

さて、このような問題は、どのような業種、どのような規模の組織でも起こりうるものです。そしてこれを放置していては、例えば「生産性を20%向上させる」といった目標を達成することは難しいでしょう。 同様に、「生産性を20%向上させる」ために取り組むべき業務改善や課題はまだまだあります。今回の例のほか、企業ではどのような問題が起こりがちです。またそれを解決するには経営者のマインドの変革が必要です。
そこで私たちは経営陣のマインドをどのように変えるべきかについて動画にまとめました。短い時間でご覧になれますので、ぜひご確認ください。それぞれの問題や不安に沿った解決策を、個別に具体的に指し示し、それを解決するためのお手伝いができれば幸いです。